それって本当にいい条件? SO 付与経験4回のてんこが教える、SO行使条件のここをみておけ3か条
スタートアップドリーム、それすなわちストックオプション。
こんにちは、てんこです。
本日はスタートアップ企業にジョインするときに一度は誰もがそのワードを耳にしたことがあるであろう、ストックオプション(通称 SO )についてお話ししたいと思います。
ストックオプションとは?
そもそもストックオプションってなんでしょう?
全知全能の神Wikiさまによると、「株式会社の経営者や従業員が自社株を一定の行使価格で購入できる権利」とのことで、社員に対するインセンティブ制度として導入されている報酬制度を意味しています。
日本では1997年の商法改正のタイミングで外資系企業の子会社日本法人等を中心に、親会社の株式を対象としての導入がすすみました。
なんだか小難しいのでもっと簡単にいえば、方式はいろいろあれど、
ストック(株)を低価格で買う権利をオプション(報酬)として給与(現金)と別にあげます!
その株の価値が上がればあがるほど、購入価格との差分が現金化した時あなたの利益になります!
なので一緒に時価総額(株価)上げていけるように頑張ろうね!!!!ね!!!!(圧
みたいな感じです。
似たものにRSUと呼ばれるものもありますが、こちらは外資系企業でよくあるインセンティブ制度で、上場前のスタートアップではあまり関係してこないので今回は説明を割愛させていただきます。
気になる人はWikiさまに聞いてみてね☆
ではなぜ企業は給与ではなくSOとしてインセンティブ設計をするのでしょうか?
理由はいろいろありますが、まず大前提としてSOはあくまで権利のため、いわゆる資産(株や現金)にしようとするとその権利を行使しないといけません。
行使???
となっているそこのアナタ。
やった!SOもらえる!これでわたしも億万長者だ!
などとぬか喜びしている場合ではありません。
そんなに世の中は甘くないのです。
実はこのSOなるもの、権利行使にはたくさんの制限があり、そう簡単に行使できるものではありません。
SOの付与が決定すると、その付与および行使条件について記載した覚書を企業から提示されることになります。
その条文、軽く流し読みしてサラサラっとサインしてしまっていませんか?
ここが一番重要です!!!!ちゃんと読め!!!
わたしは今までにラウンドにしてシード~シリーズBあたりのスタートアップを数社経験しており、ありがたいことにすべての会社でSOをもらってきました。
しかしそのいずれも、転職のたびに紙切れにしてきたのもまた事実…。
自分がジュニアレイヤーであればそこまで年収が高くなりきっていないので入社のタイミングからSOを提示されることはあまりないですが、だんだんと自分のキャリアがシニアレイヤーに近づいてくると、年収もそれなりに高いので資金のないスタートアップはそう簡単にオファーを出せません。
そんなとき、スタートアップは給与水準を下げて入ってもらう代わりに、SOでその不足分を補う形で条件提示をしてきます。
余談ですが、この下げ幅は結構慎重にならないといけません。わたしは30歳の大台に乗るタイミングで一度、年収を前職比で70%まで下げて新しい会社に飛び込みましたが、この時代を私は金なし暗黒時代と呼んでいます。
この話は別の機会で詳しくお伝えしようと思いますが、30歳を超えてからの20%以上の年収ダウンはよほどの理由がないかぎり(経営陣としてのジョインするとか)でない限りおすすめしません。
さて、ではその条件、具体的にどこを確認したらよいのでしょうか?私の経験則から申し上げるとすると、下記3つは最低でも押さえていただきたいと思います。
- そのSO、行使条件に期間ついてる?
- そのSO、行使条件に人事縛りある?
- そのSO、全発行済株式の何%?一株当たりの行使金額は?
さぁ、一つずつ見ていきましょう。
その SO 、行使条件に期間ついてる?
一般的に、期間無制限なSOは世の中にほとんどなく(2021年8月現在)期間条件がついているものがほとんどです。
例えば、
- オファー時に提示したSOを一気に付与するのではなく4年かけて1/4ずつ付与する(ベスティングと言います)
- 上場してからじゃないと行使できない
- 条件として定めた売り上げ目標を会社として達成できてないと行使できない
- 上場してからもSOを行使して取得した株を売却する際一気に売れないよう株の売却割合が制限されている
- 上場後直後に売却できないよう売却できるタイミングが2年後などに設定されている
などなど。
個人的には、SO付与のタイミングにべスティングがついているのは問題ないと思いますが、それ以外の行使条件、売却条件が厳しいものはただの紙切れになる可能性が非常に高いです。
ですので、わたしとしてはこの条件がきついと
これはその名の通り完全にオプション。オファー条件比較の項目には入れないでおこう。
ということでSOで給与減額分を補填するといったような交渉には応じないと思います。
それならSOいらないんで給与に全振りした条件提示をお願いする感じ。あくまで個人的な基準です。
ここでなんで紙切れに?と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、そちらはまさに次の項で説明する従業員縛りが大きく関係します。
その SO 、行使条件に従業員縛りある?
SOの条件で、この従業員縛りはほとんどの会社が前提として入れています。
この記事の序盤で、スタートアップは基本原資(キャッシュ)がないので年収レンジの高い人をそう簡単に採用できない話をしました。
実はそこに関係していて、SOは行使のタイミングでその会社の従業員(あるいは役員、経営幹部等)であること、という行使条件を設けることで、人の流出を防ぐ目的でも付与されることがあるからです。
入社時のオファーでSOを提示されなかった方でも、その会社にとってアナタが重要な人材で、他社に行ってほしくない、ヘッドハントされてもっていかれたら困る、といった場合に、SOによってアナタを繋ぎとめるのです。
これは一見、効果がありそうですがすべてのスタートアップからSOを付与されたわたしが断言できることは、SOによって自分は会社から重要人物だと思ってもらえているんだな、ということを認識することはあっても、そのSOだけでその会社でずっと働き続けるぞ!となったりはしないということです。
私も若かりし頃、初めてのSOを付与された数か月後に転職を決意して社長に申し出たことがありましたが、その時社長が
「てんこさんに付与したSO(約0.04%)の行使価格はXX万円で、1年後にさらに〇個付与予定(約0.24%)でした。
時価総額XXX億円で上場する(予定)のでその価値は約X,XXX万円に到達します。
さらにそこから2年で時価総額をXXX億円にもっていく(予定)ので、その価値は約X億円になります。
権利行使のための原資がなければ行使費用を私が融資することもできました。」
と、まるで振られた男が
「俺は将来ビックになってハイスぺ男子になるのに!!お前は見る目がない!もったいないことしたな!」
的な、すべてタラレバの童貞の捨て台詞みたいなメッセージを送り付けられたことがあるのですが、これを受信したとき
嗚呼、やっぱり転職してよかった!
と心から思いましたし、今も当時の自分をほめてあげたい気持ちでいっぱいです。
あれから数年経ちましたが、この会社の現在はというと…残念ながら今も上場していないですし従業員も増えておらず、プレスリリースの数も減って、資金調達のニュースも聞かなくなりました。
あれ、今もう上場してないとおかしいんだけどな…
まぁこんな感じで、せっかくSOをもらっても上場前に、その行使条件がそろう前に退職して別会社に移ってしまえばそれはその瞬間SOは紙切れとなってしまいます。
せっかく年収を下げてはいったのに、結局低年収で数年頑張っただけでその対価も得られず権利放棄することになるのですから、よっぽどその仕事が自分のしたいことであるか、あるいはこの会社自分が上場させるぞ!ぐらいの気概がないとSOで転職先を決めてはいけません。
SOはその名の通り、あくまでオプション。
その会社からの自分への評価や期待を測る指標にすることはあっても、労働対価の条件としてテーブルに並べるのはおすすめしません。
ちなみに、そもそも従業員縛りのないSO(退職する場合でも権利放棄しなくてよい)を発行しているところもあります。
日本では稀ですが、この縛りがないSOを付与するといっている企業がいれば、結構人の本質を分かっている企業である可能性が高いですし、そもそも人を集める手段や辞められないようにするために取る対策が根本的に違うので、人を大事にしている企業なのかもしれません。
全発行済み株式の何%で金額はいくらになる?
最後はSOの全発行済み株式に対する割合の話です。
よく、「SOって何個ぐらいもらえると良い条件なのかな?」的な質問を受けることがありますが、実は資本政策のどのタイミングで付与されるかによって1個当たりの株の価値や割合が全然違うため、重要なのはその割合(%)と金額になります。
しかもSOは、全体の株式数から発行できる割合が決まっているため(だいたいIPO直前の発行済み株式数の10~15%です)、資本政策が進めば進むほど、つまり、シリーズの後半でもらうSOだとそもそもSO発行時の株価が上昇してしまいます。
これでは、権利行使するときの自己負担金額も高苦なりますし、上場後に行使価格からそんなに上昇しなかった場合、本当に雀の涙ぐらいの利益にしかならない可能性もあります。
ではどのくらいの割合が望ましいのか?これは一概には言えませんが、経験上の私の分析では、
0.05%以下:資本政策が後半シリーズでジョインであれば仕方ない。そもそももうそんなに残っていないので、ちゃんとした給与条件を提示してもらうべき。もっと早いラウンドでのジョインでこの割合だと、平均的社員としての期待値と評価レベルです。入社後のパフォーマンスによってはさらなる付与も期待できます。ただし、中にはあんまり社員に報いる気がない企業である可能性も高いため、本当にオプションとして考えた方が良いと思います。
0.05~0.1:シリーズBあたりまで成果を出していたらありえる提示で、会社はある程度優秀な人材として評価している。
0.1以上:シリーズAラウンド以前でオファー時にこの提示だとそこそこ期待されています。むしろその期待を裏切らないよう、しっかり成果出さないといけません。シリーズ後期の場合はそもそも行使価格が吊り上がっていていてあまり利益差分が出ないのと、自己負担が大変です。
こんなところでしょうか。
参考までに過去スタートアップドリームをかなえた企業のSO付与比率と取得利益を試算したデータがあるのでリンクを張っておきます。
付与率の中央値は0.185%、資産価値は左記の比率で大体1億円くらいです。
最後に、 SO って夢ある?
リスクをとってラウンドの早い段階でスタートアップにジョインするのであれば、やはりSOはあると嬉しいものです。
ただしそれは現実問題としてはほぼ権利行使できずに紙切れになっていく確率の方が高いので、宝くじ的な位置づけに思っておくと良いでしょう。
それよりも、やはり転職先で重視してほしいのはなんといっても一緒に働く人とその企業文化。
その会社に一緒に働きたい!と思える人は見つかっていますか?その企業文化はアナタのポリシーに合致していますか?
スタートアップは大企業と違って全体の人数が少なく、一緒に働く人との相性が合わなかった場合悲惨なことになります。
条件も大事ですが、人を見て良い転職先を見つけられるといいですね。
SOについてもっと知りたい方は、無償SOと有償SOについてまとめたこちらの記事も参考にしてみてください。